看護師は給料がいい——そう思っていませんか?
実態は違います。夜勤手当込みでようやく平均値。夜勤なしなら手取り20万円を割ることも珍しくない。
国家資格を持つ専門職として、これは明らかに割に合っていません。

でも問題は「金額」だけじゃない。その給料に、いったいどれだけの業務が乗っているか——そこです。
この記事では、17年間・複数の診療科で働いてきた看護師の視点から、「看護師の給料が安い」構造的な理由を、現場の実態とともに解説します。
目次
- 1. 看護師の本来の業務範囲
- 2.「看護師に全部やらせたほうが効率的」という病院の論理
- 3. 夜勤の実態——「患者さんは夜寝てる」は幻想
- 4. 自損事故も看護師の責任になる理不尽
- 5. 認知症ケアの現実——これは特別なケースではない
- 6.「抑制は虐待」報道が見落としていること
- 7. 世話はしないのにクレームだけ言う家族問題
- 8. ミスが起きたとき個人に責任を押しつける構造
- 9. この構造を変えるために、私たちができること
1. 看護師の本来の業務範囲
看護師の仕事は「点滴交換」や「注射」だと思っている人が多い。
でも、実際に担っているのはこれだけじゃありません。
- バイタルサインの測定・異常の早期発見
- アセスメント(状態変化の判断)
- 入浴介助・清拭などの保清ケア
- 疼痛管理
- 患者・家族へのメンタルケア
- 医師・リハビリ・福祉職との情報共有とケア方針の検討
これだけでも、十分にハードな専門職です。
でも実際は、ここに「本来は他職種がやるべき業務」が混在しています。
書類入力、薬の搬送確認、検査への付き添い、ナースコール対応——これらは「看護師にしかできない仕事」ではない。
それでも人手不足と慣習を理由に、看護師が引き受け続けています。

2.「看護師に全部やらせたほうが効率的」という病院の論理
なぜこの状況が続くのか。
理由はシンプルです。看護師は、病院にとって”安くて多機能すぎる”存在だから。
国家資格を持ち、医療行為もできる。
コミュニケーション能力も高く、書類仕事もこなす。夜勤もこなし、患者のそばにいる——
こんな多機能な職種を、月20万円台で雇えてしまっている。
病院の立場から見れば、業務を切り分けて他職種に振るより、「看護師に全部やってもらうほうが効率的」になってしまうのです。

善意で現場を回している看護師たちが、結果的に「この体制でも回る」という既成事実を作り続けてしまっている。これが構造の核心です。
3. 夜勤の実態——「患者さんは夜寝てる」は幻想
「夜くらい患者さんも寝てるんじゃないの?」
残念ながら、そうはいきません。
夜勤は、認知症の患者さんが本領を発揮する時間帯です。
日中は穏やかでも、夜になると状況が一変する。スタッフが減り、手が足りなくなる、まさにその時間に。
そして夜に体調が悪化して救急に来る患者さんもいる。「夜は患者が寝てる」と思っているあなた自身が、深夜に受診した経験はありませんか?
深夜に対応している看護師は、その間ずっと休めていません。夜勤手当込みで「やっと普通の給料」になる——それが実態です。

4. 自損事故も看護師の責任になる理不尽
これは夜勤中に限った話ではありません。
- 自分で動いて転倒する
- 薬を飲まずに捨てる
- 無断で帰宅する
- 院外へ”お出かけ”する
患者さんが自分の意思で行った行動でも、怒られるのは看護師です。
さらに「インシデントレポート」という書類仕事まで発生します。業務過多の中に、また書類が積み上がっていく。
5. 認知症ケアの現実——これは特別なケースではない
認知症の患者さんは、力ずくで殴ってくることがあります。
入れ歯と唾を飛ばしながら怒鳴ってくる。
難聴も重なって、言葉がまったく通じない。
目を離した隙には——
- ナースコールを連打し続ける
- 「帰ります」とフラフラ歩き出す
- 点滴や尿道留置カテーテルを自己抜去して血まみれになる
- 便や尿をぶちまける
- 骨折していても、浮腫で脚がパンパンでも歩こうとする
これは誇張でも特別なケースでもない。
夜勤の病棟では、ごく普通に起きていることです。
放置すれば病状は悪化する。
転倒すれば、さらに悪い展開が待っている。
だから目が離せない。手が離せない。
その間——他の患者さんからのナースコールは鳴り続けています。
トイレに付き添えない。
痛みを訴える人のところへ行けない。
手術後の患者さんの観察もできない。
入院したばかりの家族は、待たされ続ける。
そして「すぐ来ない」とクレームになる。
誰も悪くない。でも、しわ寄せは全部、看護師に来ます。
6.「抑制は虐待」報道が見落としていること
近年、身体抑制に関する報道が増えました。
「縛る行為は人権侵害だ」「抑制は虐待だ」——
抑制はしないに越したことはない。それは看護師も同じ気持ちです。
でも、その報道には決定的に抜け落ちている前提があります。
「抑制をしなくていいように、常時誰かが見守れる環境があれば」——
その前提が、現場にはありません。
抑制は「罰」でも「手抜き」でもない。太い血管への点滴を自己抜去すれば大量出血、カテーテルを膨らんだまま抜けば尿道損傷、栄養チューブを抜けば誤嚥・窒息——これらのリスクを、認知症の患者さんは理解できないのです。
看護師は「縛りたくて縛っている」のではない。命を守るために、苦渋の選択をしているのです。

7. 世話はしないのにクレームだけ言う家族問題
「仕事があって」「子どもが小さくて」
——様々な事情で、介護を病院に委ねる家族がいる。
それ自体を責めるつもりはありません。
でも。
自分では世話をしないのに、「抑制されている」「対応が行き届いていない」とクレームを入れてくる。
24時間、食事も排泄も安全管理も、すべて引き受けている人たちへの「ありがとう」が、先じゃないか。
感謝よりクレームが先に来るとき、看護師のモチベーションは静かに削られていきます。
それが積み重なって、「もう辞めよう」につながっていく。
8. ミスが起きたとき個人に責任を押しつける構造
業務過多の状態でミスが起きれば、問われるのは現場の看護師です。
「確認が甘かった」「注意が足りなかった」——
でも待ってください。
そもそもその業務量が、一人の人間が安全に管理できる量を超えていたとしたら?
構造的に無理な状態を放置しながら、ミスが起きたとき個人に責任を負わせる。これはフェアではありません。
看護師不足は以前から問題視されています。にもかかわらず、待遇改善も業務整理も進まない。
理由はシンプルだと思っています。現状維持が、病院にとっても国にとっても都合がいいからです。
「看護師は使命感で働く職業」というイメージが、この構造を支えるイデオロギーとして機能している側面もある。
誇りを持って働くことと、不当な扱いを受け入れることは、本来まったく別の話のはずです。
9. この構造を変えるために、私たちができること
現場の看護師一人ひとりが声を上げるのは、簡単ではありません。
でも、「知っている人」を増やすことはできます。
医療を使う側が看護師の仕事の実態を正しく理解すること——それが変化の第一歩です。

「なんで看護師さんっていつも忙しそうなんだろう」
その疑問を持ったとき、ぜひこの記事を思い出してください。
構造を変えるのは制度ですが、制度を動かすのは、社会の認識だから。
【執筆者プロフィール】
看護師経験17年。脳神経外科・糖尿病消化器内科・循環器内科・産婦人科・小児科など複数診療科の勤務経験を持つ、アラフォー元シングルマザー看護師。
現在は小児病棟で現場仕事と看護管理職を兼務しながら、看護師の働く環境や医療リテラシーについて発信中。



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