プリセプターが怖い、と感じたことはないだろうか。
私の新人時代のプリセプターは、目が常に1/3しか開いていなかった。
夜職もしてたから眠いのか、機嫌が悪いのか、それともそういう顔なのか。
化粧して小さいおしゃれバッグで日勤に来る日が週2くらいあった。
日勤終わりに夜職に直行らしい、という噂だった。
新人の私には判断できなかった。
ただ、その目で見られると、なんか、怖かった。
そのプリセプターを、ここでは「紗里さん」と呼ぶ。
狩野英孝の元カノで有名になった加藤紗里さんに、顔がそっくりだったので。
そして、見た目通りの人やった。
師長のお気に入りで、仕事は捌けて、医者とはタメ口で大笑いしながら喋ってる。
でも私が話しかけると口数が減って、1/3目でジトーーーって喋る。
スタッフには陰で「死ね」って言われてるくらい嫌われてた。
本人は気づいてない感じやった。
そんな紗里さんから、ある日カルテをぶん投げられた。

「何で?何でそんなことしたと?
もう守ってあげれんけんね!」
九州出身の彼女。
私に向かってきた紙カルテが宙を舞って、床に落ちて、書類がバサァーーーーっ。
私はウルウルウル。
今思えば「守ってあげれんけんね」の意味がよくわからんのやけど、
あの瞬間は怖すぎてそれどころじゃなかった。
紗里さんへの報告はいつもこうだった。
「あの、えっと、○○さんが、あの…」
どもる。噛む。まとまらない。
今の私が見たら、肩をポンして「一回落ち着け」って言いたい。
でも当時の私には、落ち着く方法がわからなかった。
だから勉強した。
専門学校卒業する年に出産して、1年ブランクがあって、 同期より遅れて就職した分を取り戻さなきゃ、という気持ちもあった。
当時1歳の子どもがいたから、自分の時間がなかなか取れなくて。 子どもが寝てから徹夜で脳外科疾患を勉強した。

それやのに、紗里さんの前に立つと。
全部、真っ白になった。
嫌すぎて師長に相談した。
「あの子ね、私の若い頃に似てるの。許したって」
これ、なんの時間?🙄
同期と組んだ「23歳の会」で毎回愚痴りまくって、飲みすぎて、次の日二日酔い祭り。
そうやって2年間、なんとか生き延びた。
そして15年後。
母が救急外来を受診した。
付き添いで行ったら、いた。
…紗里さんおった😱
あのねっとりした喋り方。
1/3しか開いていない目。
動悸がした。手が震えた。
いやいや待って。私はもう新人やない。
看護師17年。副主任。後輩だって育ててきた。
あの頃とは違う、今なら同じ立場で話ができる——
患者さんの家族として来てるのに、
なぜか私は15年分の何かを、勝手に奮い立たせていた。
どうにかバレないようにしてたのに。
「……めーちゃん?」

紗里さんの目が、全開になった。
15年で初めて見た、紗里さんの全開大の目やった。
やっぱり怖い。
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