「看護師が足りない」という言葉を、何度耳にしただろう。
給与が低い、夜勤がきつい、人間関係が悪い
——そういった声はよく聞かれる。
しかし、もう一つ見落とされている問題がある。
准看護師養成所は20年間で約70%減少し、看護師養成所の定員充足率も2024年度についに90%を割り込んだ。
少子化が加速する中、看護師を志す人そのものが減りつつある。
それでも現場の人手不足が解消されない理由は、給与や労働環境だけにあるのではない。
人員配置の根拠となっている「制度」が、現場の忙しさを正確に反映できていない。
この記事では、重症度・医療・看護必要度という評価制度の構造的な問題を、管理当直での実体験と数字をもとに解説する。
現場で感じてきた「おかしさ」の正体を、一緒に考えてほしい。
目次
- 看護師の人手不足はなぜ解消されないのか
- 養成数の減少と制度の限界
- 給与・人間関係だけが原因ではない
- 重症度・医療・看護必要度とは何か
- 評価基準に偏りがある——誰が何のために作ったのか
- 内科系病棟で点数が上がらない構造的な理由
- 小児・産科は対象外——見えない人手不足
- 管理当直で見た夜の病棟格差【現場の実態】
- このまま放置すれば何が起きるか
- 制度を変えるために必要なこと
看護師の人手不足はなぜ解消されないのか
養成数の減少と制度の限界
准看護師養成所は2004年の312校から2024年には182校へ、20年間で約70%減少した。
看護師養成所(3年課程)の定員充足率も2024年度に90%を割り込み、卒業者数は2021年度をピークに減少に転じている。
(出典:厚生労働省「看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査」、日本看護協会)
なりたい人が減っただけではない。制度そのものが、現場の実態を反映できていない。

給与・人間関係だけが原因ではない
看護師不足の原因として語られるのは、給与の低さ、夜勤のきつさ、人間関係の悪さ
——そういった声が多い。
しかしもう一つ、見落とされている大きな問題がある。
人員配置の基準となっている制度が、現場の忙しさを正確に反映していないという構造的な問題だ。
重症度・医療・看護必要度とは何か

重症度・医療・看護必要度とは、入院患者にどれだけの看護が必要かを点数化し、その点数に応じて病棟の人員配置や診療報酬を決める評価指標だ。
厚生労働省が定めており、病院経営と直結している。
点数が高い患者が一定割合を超えると「重症患者を多く受け入れている病棟」と認定され、より手厚い人員と診療報酬が認められる。
逆に言えば、点数が上がらない病棟には、人も金も回ってこないのである。
評価基準に偏りがある——誰が何のために作ったのか
内科系病棟で点数が上がらない構造的な理由

重症度・医療・看護必要度の研修や看護管理者向け研修の場で、講師から繰り返し語られてきたことがある。
この評価基準の策定には、血液内科系出身の関係者が深く関与しているという指摘だ。
血液内科では点滴・輸血・化学療法など「手技」が多い。
これらは評価項目に組み込まれやすく、点数が上がりやすい。
一方、内科系病棟で日常的に行われている看護
——状態観察・アセスメント、認知症患者への対応、生活援助・保清、患者・家族への説明と傾聴——
これらは点数に反映されにくい。
どれだけ丁寧に、どれだけ時間をかけても、数字には現れない。
結果、内科系病棟は「軽症患者が多い病棟」と評価され、人員が補充されない。
小児・産科は対象外——見えない人手不足
さらに深刻なのが、小児病棟と産科病棟だ。
これらはそもそも重症度・医療・看護必要度の評価対象外とされている。
どれだけ緊急入院を受け入れても、どれだけ夜通し対応しても、人員配置の根拠にはならない。
制度の外に置かれた人手不足は、数字にすら上がってこない。
管理当直で見た夜の病棟格差【現場の実態】
現場で働きながら、月一回の管理当直をしていた時期がある。
夜間、院内の各病棟を巡回する中で、繰り返し目にした光景がある。

外科病棟:看護師がステーションに座っている。
内科病棟:センサーとナースコールが鳴りっぱなし。詰所に看護師がいない——全員、病室に出ずっぱりだ。
これは例外ではなく、ザラにある光景だった。
患者の重症度は内科のほうが高いことも多い。
にもかかわらず、制度上の点数は外科のほうが上がりやすく、人員配置はその点数に基づいて決まる。
忙しさと人員が、逆転している。
これは個々の病院の問題ではなく、制度が生み出している構造的な歪みだ。
このまま放置すれば何が起きるか
看護師養成数の減少と現場の疲弊は、すでに数字に表れ始めている。
2024年度の准看護師養成所への入学者はわずか4,207人。
ピーク時から約70%減だ。看護師養成所の定員充足率も90%を割り込んだ。
少子化が加速する中、このトレンドは今後さらに悪化する。
制度が現場の実態を反映せず、忙しい病棟ほど人が足りないまま放置され続ければ、消耗した看護師が離職し、次の世代が看護師を選ばなくなる。
養成数の減少 → 現場の疲弊 → 離職増加 → さらなる人手不足
この悪循環を断ち切るためには、現場の善意と工夫だけでは限界がある。制度レベルでの見直しが不可欠だ。

制度を変えるために必要なこと
「看護師の業務量を可視化する」という重症度・医療・看護必要度の理念自体は正しい。問題は、可視化の視点が偏っていることだ。
必要なのは以下の3点だと考える。
① 評価項目の見直し 手技だけでなく、観察・アセスメント・生活援助など「見えない看護」を点数化できる仕組みへの改訂。
② 策定メンバーの多様化 内科・小児・産科・精神科など多様な現場の声を反映させる体制づくり。
③ 小児・産科の制度への組み込み 対象外とされてきた診療科を評価の枠組みに入れ、実態に即した人員配置を可能にする。
現場で声を上げることが、制度を動かす第一歩になる。



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